親切

 その人は、とある人との交渉に苦戦していた。
動けない人の代わりに
色々骨を折りお膳立てをしてきたが
逆にそれが気に入らないらしく反故にされ
かなりいらだった状態にあった。


「代わろうか?」
そう申し出た。
任務は僕に引き継がれる事となった。


 確かに難物な相手だった。
それをなんとか自分なりに
交渉し、まとめてきていた、つもりであった。
次のステップをと考えていた矢先、
一つのメールが届く。


”もう勝手にやらせる事にしました。
手を引いてください。”
唖然とした。
一段一段上っていた階段が
足下から急に消えたような感覚。


嫌がらせで無い事はわかる。
苦労するであろう僕を思いやり
その人なりに考え、差し伸べてくれた手なのであろうことも
しかし、自分にもう少し任せて欲しかったという残念な思い
そして、信頼するに足りなかったのであろうかという寂しさが残った。


そう、怒りよりはむしろ寂しさが強く残った。


 僕の手を離れたそのことが
せめて美味く帰結する事
それだけが今、僕ができること。