やってはいけない富士登山1

1.山へ至る道



 「嘘だろ・・・」


信じられなかった
目の前の光景に。


そして笑うしかなかった、
この事態に。



1-1.機会は突然に


 「今年の夏にさあ、富士山登らない?」
友人Aが提案してきたのは、
梅雨明け間近、いよいよ夏本番という6月末のことだった。


 インドア派なAにしては珍しいことを言い出すものだと思いつつ、
「ああ、いいねえ。」
僕は、即答した。


 静岡生まれの僕にとって富士山は
非常になじみ深い山
視界に無い生活など考えられない山。


 そんな生活の一部とも言える山だったが
登るとなればまた別の話。
なかなかその機会もなく、
いつかはと思っていた矢先の事だった。


まさにチャンスだと。


 こうして2人の旅は決まったものの
それだけというのも寂しい。
 当時つるんでいた何人かにも声をかけてみたが
いずれも用事があったり気乗りせずで参加してくれず。


「仕方ないか。」
「さすがに富士山登るとなるとねえ、
 簡単には決断できないんでしょ。」


 無理強いしても仕方あるまい。
結局僕とAの2人で登る事になった。


そう、これがあの長い一日のきっかけ。
僕にとって忘れられない一日の。