やってはいけない富士登山3

★2-1.選択


 8月終わりの午後、JR御殿場駅
ツクツクボウシニイニイゼミが鳴いている。
夏もそろそろ終わりか。
『まだまだ暑いけどね。』
滝の様な汗を拭きつつ待つ。


 坊主頭の男がやってくる。Aだ。
「久しぶりー。」
「お前、なんだそりゃ、気合入ってるなあ(笑)。」
「まあね。」


 
 再会を喜び、まずは互いに近況報告。
休み前にあって以来、約1月半振り。
話は尽きない。


 とはいえ、本格的に話し込んでしまう前に
決めておかなければならない話が一つある。


「どっちの登山口にする?」



 御殿場駅からの登山口として
”御殿場口”・”須走口”の二つ。
そのどちらを使用するか
結局決めきれていなかったのだ。


 途中で山小屋に宿泊したり
道中気になる場所があるならば
どこの登山口から登るかは重要だろう。


 しかし”頂上について御来光を拝む”が達成できればいい僕らには
その辺は気にしていなかった。
まあもっとも、夜中登るから、
辺りの風景などどうでもいいって話もあるのだが。
むしろ重要なのは・・・。
 

「須走って方が、最終バスの時間遅いよ。」
「じゃあ、そっちでいいか。」
そう、気にする事は”出来る限り【遅く】”に登山口へ到着出来る事。
その一点だった。


『だって、早く登り始めたら、頂上に真夜中着くでしょ。
その後は暇じゃん。
だから、最終バスが遅い須走口を選ぶのが適切でしょ?』
僕らは、そう考えていた。



 夕刻、須走口行き最終バスが
御殿場駅を出発する。


「なんか寂しいねえ。」
シーズン終わりの最終バスは
僕ら2人だけを乗せ
一路富士山を目指す。