やってはいけない富士登山5

★2-3.アイテム


「何この雨。」


 歩き始めて数分、
いきなり前が見えない程の豪雨。
慌てて近くの神社へ避難。


 初っぱなからついていないなあと心に浮かぶ者の、
<そんなに焦るなよ>と神様が仰っているのだと思い直し
雑談しながら雨宿りして待つ。


 何せ後10時間近くもあるのだ。
焦る必要はない。
この頃僕らは、とかく”余裕”だった。


 その雨も小一時間ほどで嘘の様に晴れ上がり、
夜空には輝く星々。絶好のコンディション。
意気揚々と再出発する僕ら。
と、その前にどうしても気になる事を
片付けておかなければならない。


「杖さあ、 お店の人もやたらと勧めてたし、やっぱ必要なんじゃない?」
「そう?」
「それにさあ、富士山登るって言うと、 みんなあの杖持ってるじゃん。」
「そうだねえ。」


 虫の知らせとでも言えばいいのか。
僕にはどうもあの”杖”が無いと
この先危うい予感がしていた。


 とはいえ、千円オーバーの商品、
持ち金ギリギリの僕らには
そう簡単に買えるわけもなし。

 また、あれだけ固辞したのに
やっぱりくださいなどと引き返すのも
なんとなく気恥ずかしい。
「それにもう山小屋閉まってたりしてね。」
「まあね。」


 『どうしようかなあ。』
考えつつ周りを見ればそこは森。
『枝があるじゃん。』
そう、辺りには使えそうな木の枝が落ちている。


「これでいいか。」
「そだね。無料ですんで良かったね(笑)。」
手頃な枝を双方見繕う。


 後々思う。
この時に木の枝を拾っておいてホントに良かったなと。
これから登る人は悪い事は言わないから杖買えと。
”普通に”登る予定の人でも、
是非に推薦する。


 こうして必要な道具を(ようやく)手に入れた僕らは
本格的な登山という名の迷走を始めるのだった。