やってはいけない富士登山6

★2-4.森を抜けて


 「これって獣道?」

 杖を片手に森の中を進む。
辺りは真っ暗とはいえ、いわゆるハイキングコース。
快適な道だったはずなのだが。


 なぜ僕らは藪の中にいるのだろうか?
なぜ胸の高さまである草木をかき分け
先に進んでいるのだろうか?


 『変だな、道を間違えたか?』
脳裏によぎるが、なにせ初めての富士山。
『こんなものだろう』
と思い、先を急ぐ。
この辺のポジティブというかあまり深く考えないところは
僕の利点と言うべきかなんというか。


 ま、それはさておいて、
藪の中をあえぐこと10分あまり
先へ先へと差し出した手が何か平らな部分にかかる。
『なんだろ?』
引っかかった大地に対し懸垂の要領でぐいっと体を持ち上げる。


 『なんだ???』
人間驚くと頭が回らなくなると言うのは聞いていたが
自分が実際そうなってみると確かな話であった。
そこにあったのは、”人によって踏み固められた道。”
それだけで無く、車のタイヤの様な跡までもが残る
しっかりとした道であった。


 遅れて登ってきたAと顔を見合わせる。
「どういう事?」
周りを見れば藪からホンの1メートル左には
正規のハイキングコースがある。


 つまり、この様な構造になっているらしい。
タイヤは山小屋まで物資を運搬している
車のものではないだろうか?
−−−−−道−−−−−
 |ハ|
 |イ|
 |キ|
 |ン|
 |グ|
 |コ|
 |ー|
 |ス|


 なんとも無駄な事をしたものだなあと
2人して笑い合う。
確かに暗かったとはいえ、
どうして迷ったのかと。


 そんな事を話ながらしばらく進んでいく僕ら。
辺りは草木も無い、殺風景なものに変わっていった。
絵で見た富士登山の風景がここに。


「いよいよだねえ。」
「そうだね。」
目の前の看板にはこのまままっすぐ行けば下山道。
右方面が登山道とある。


 この先にはハードな登山が予想される。
「さっきのようなことがないように気をつけないと(笑)。」
満天の星の下、歩み始める僕ら。


 そして苦闘が始まる。