やってはいけない富士登山8

★3-2.幻の頂上


「減ったね、明かり。」
富士山を背に腰掛けつつ
下界を眺める。


 眼下に広がる街並みの明かりが一つまた一つと消えていく。
列を成していた車のヘッドライトは、数える事が出来る程になっている。
時間は午前2時過ぎ。
真夜中だ。


 僕らは変わらず這いつくばっていた。
何度目だろうか、”幻の頂上”に達するのは。
見上げた視線の先、輝く一筋の明かり。
『もしや、あれは山小屋の、
 頂上の山小屋の明かりか!?』


 期待を込めて進んでみれば
それは星の明かり。
眼前には相変わらず岩肌が広がっている。
途切れそうになる気持ち。
しかし登るしかないのだ。
この”下山道”を。


 相変わらずの2人ぼっち。
いや、正確にはチャンスがあった
もっと多くの人と巡り会うチャンスが。


 ふと見た右手の先。
ライトがいくつか並んで見える。
「おいA、あれ登山者じゃない!?」
「あ、ほんとだ。そうだね。」
「行こう、あっちへ。」


 嬉しかった。
この広い山に僕ら2人だけでない事がわかって。
そして他の人が登っている道へ僕らも行ける事に。
1歩また1歩と近づく。


 大きな亀裂だった。
オリンピックメダリストなら飛び越えられるかも知れないが
やや運動不足の平凡なる大学生には到底無理な程の。
深さ数メートル、飛び降りれば、よくてねんざだろう程の。
そしてロープも何もない僕らは登る事が出来ないであろう程の。


「戻ろうか・・・。」
「うん。」
結局この希望も満たされなかった。


「どの辺だっけ、登ってたのは?」
「さあ。」
鍛えられていない僕らの目には全く同じように見える岩肌。
先程まで登っていた辺りはいずこやら。
「もうどこでもいいよ。上に着くなら。」
「そうだね・・・。」


 再び這いつくばる戦いが始まる。
少し進んでは休憩。
ゴールの見えない戦いがいかに辛い事か。
しかし、”いつかは”着くんだ。
それだけが僕らにとって最後の希望だった。



 何度目の”幻の頂上”だっただろうか。
『どうせ今回も・・・。』
そう思い、手をかける。
『感触が、違う!』


 力をこめてぐっと体を持ち上げる。
『!?』
そこは。