やってはいけない富士登山9
★3-3.現実
そこは・・・堅く踏み固められた大地だった。
幾人もが通った後だ。
ロープを備え付けるなど人の手が加えられている。
これまで僕らが通ってきた場所とははっきり異なる場所。
そう、「道」だ。
「どういう事?」
遅れて登ってきたAと顔を見合わせつつ
腰から崩れる様に座り込む。
呆然としつつ頭を切り換え考える。
いったい何でこうなったのか、を。
事は簡単だ。
一言で述べるなら
「道に迷った。」
あの分かれ道
登山道と下山道が90°で交わるあの道で
僕らは右へ、”登山道”へ進んでいた。
恐らく最初は道なりに進んでいたのだろう
だがしかし、あるタイミングで、
暗闇に惹かれる様に離れていったと思われる。
下
_______登 |
そしてこの様に交わっている道の
ちょうど真ん中辺り
そこが僕らのこれまでの戦場。
そんな整備されていない場所をひたすらに登ったのだろう。
疲れて、苦戦して当然だ。
そんな迷走を続けた僕らがようやく合流できたのだ。
『なんてまあ、無駄な事を。』
思わず口に出しそうになるがとどまる。
それだけは言ってはいけない。
恐らくAも同じ気持ちだろうが。
言えば、それを肯定する事になり
どっと今以上の疲労が襲ってくるだろうから。
「まあ、いいじゃん。
これで正規の道に戻れたし。」
「そうだね。約6時間か。
これだけ頑張れば結構来てるでしょ。」
「ああ、もう一息で頂上さ」
あまり休んでいるわけにもいかない。
明け方までに頂上に達しなければならないのだから。
再び歩みを始める。
数時間ぶりに見る看板。
そこには、新7合目3000メートルと書かれていた。