やってはいけない富士登山13

★4-3.苦行


 5時間。
僕らが800メートルを登り切るのにかかった時間。
普通の倍だろうか。


 これまでが嘘の様に
ロープも張られ、整備された道。
これなら迷うことなく、ただひたすらに進めばよい。
しかし、その恩恵を預かれぬ程に
僕らの体は限界だった。
山を嘗めてはいけない。
いや、もうここまででかなり嘗めている気はするが。


 ジグザグの道。
なんとかコーナーまではと、杖をつきながら必死に歩く。
到着後は座り込んで休憩。
その繰り返し。
いかにもな山登りスタイルの集団から
女子大生、そして老人会。
もうありとあらゆる人に抜かれた。


『ああ、もうどうぞどうぞ。
お気になさらず先へどうぞ。』
先を争う様な気持ちは当然無い。
むしろ下手に皆から注視されてしまうのも恥ずかしい。
そんな気分。


 道中、とにかく喉が渇く。
「水くれない?」
Aに頼む。
僕の水筒はとうに空。
役に立たないのに場所を取って
更に重い水筒が恨めしい。
一方のAは1.5リットルペットボトル。
まだしばしの余裕があった。


 この水問題、Aが正解。
ペットボトルは最後つぶす事で
リュック内に占めるスペースを減らせる。
そしてなによりも軽い。
お勧め。
なお、くれぐれもだが、ペットボトルを捨てて帰るようなことはないように。


 そういえば荷物といえばビデオカメラ。
御来光までが自分の出番でしたというわけか
日が昇りきったらバッテリー切れ。
ちゃんと充電してきたのに、寒さだろうか。
それなりの大きさと重さの8ミリビデオカメラ。
これも肩にずっしりと食い込んでいた。
余談だが。


 眼下に見える山小屋。
その屋根には決して綺麗とは言えない布団が干してあった。
「あの布団の上でさあ。
 大の字になって寝たいよなあ。」
「だね。」
とにかく僕らは疲れていた。