やってはいけない富士登山16

★5-2.時間



 昼下がり、とっくに下山している時間のはずだった。
まさかこんな時間にバスに乗っていないどころか
まだまだ山の上の方にいようとは
想像もしていなかった。
故にバスの時間も気にしていない始末。
全くもって甘々な話。


「昨日の僕らが乗ってきたバス、
あれがそのまま最終になるんじゃない?」
「たぶんね。だったら17時頃が最終か。」
考え方としては正しいのだろうが、
何せ確信が持てない。


「バス無かったらどうしよう。」
「タクシー、呼んだら来てくれるのかなあ。」
「でもさあ、こっからっていくらかかるんだろ?
万金コース?」
「じゃあ、泊まるとか?」
「それはそれで金が無いよ。」
不安に煽られつつ、下山を急ぐ。


 須走口は”砂走り”の名の通り、
くるぶし辺りまで埋まる砂を使って
半ばすべるように進むことができる。
新品の靴など履いていけば
あっという間にお古と化す。
そんな場所。


 この本来は利点となる特性も
疲れからあまり足が動かない僕らには
むしろ欠点となる。
なにせ急ぎすぎて互いに転んだ位なのだから。


「慎重に行こうよ。
大丈夫、まだ間に合う。」
とはいえ、小学生低学年ぐらいの子を連れた母子3人組に抜かれたときは
どうかと思ったが。


 行けども行けども続く砂地に
嫌気さしつつ頼りの杖を片手に歩く僕ら。
イムリミットまで、残り約2時間。