やってはいけない富士登山17

★5-3.終わり


「ようやく。」
あのハイキングコースの道と出会った時
その言葉が思わず漏れた。
ここまでくればあと一息。
悩まされた砂地ともお別れだ。


 実のところコンタクトレンズを装着している僕にとって
砂地というものは細かいゴミが入って非常に辛かった。
あんな所じゃ外す事もできないしね。
メガネにするか
花粉症用の完全防備ゴーグルでも着けるのをお勧めする。
余談ながら。


 ハイキングコースを下り、5合目を目指す。
「なんでこんなところで藪に突っ込んでったのかなあ。」
「ちゃんと道あるのにね。」
「まあ、でもまだここは可愛いものだったよなあ。
 その後に比べりゃ。」
のど元過ぎればなんとやら
僕らには先程までの事を笑い飛ばす余裕も出てきた。


 雨宿りしたあの神社が見えてきた。
ラソンだったら競技場内をラストランしているぐらいの位置だろうか。
色々間違っていた僕らの登山もようやく終了。
そして一つのお別れ。
例の杖、もとい枝。
ここまで非常に助けてもらっていたのだが
家に持って帰ったところで役目無し。
であればここ富士の地で土に帰ってまたいつかの法が
思い、道ばたにそっと横たえる。
『ありがとう。』


 安堵した心は疲れた体を座席に沈めるまでが精一杯だった。
帰りのバス。
公共機関ではまず寝る事のない僕なのに熟睡してしまった。
気がつけば駅。
「この後、静岡来る?」
「いや、やめておくよ。」
「だよね。」
さすがに彼も帰るとのこと。
まあ無理もあるまい。


「それじゃまた9月に大学で。」
先に電車が来たAが帰る。
僕はしばらく余裕がある。


『ちょっと本屋でも覗いてくるか。』
商店街へと足を運ぶ。
御殿場の町は雨に濡れていた。