今週のお題「春が来たら」


 春が来たら僕は春を見に行く。
僕の春を見に行く。
春の名は菜の花という。


その黄色い花の光景は
暖かな空気と共に漂うその匂いは
無性に小学校のあの頃を思い出させる。
あの六年間、
僕はその色を見つつ
その匂いをかぎつつ学校へと通っていたのだから。


 とりわけ印象に残るのは4月の最初の頃。
始業式の頃。
楽しみよりも不安が募る。
1年間仲良くしてきた友とは別れるのだろうか
今年もまた同じでいられるのだろうか。
新しいクラスはどんなだろうかと。


クラスが別れたとはいえ
所詮は同じ学校の中
たいした違いではないだろうと思えるのだが
違うクラスになるって事は
ずいぶんな隔たりを感じていた当時。
故に一大事なのだ
クラス分けというモノは。


 悲喜こもごもはあるが
とりあえずの確認を終え
新しい新しい教室へと入る。


知っている人、見たことのある人ばかりであるはずなのに
なぜ一種異様とも言える
特別な雰囲気があるのだろうか
新しいクラスには。
とりあえず皆が皆
自分の所在を探す。
席ではない。
自分がそのクラスの何処に位置するかを。


 中には早々にその位置を見つけ
グループを形成している人達もいる。
僕はといえば生来の引っ込み思案、人見知りな事もあり
なかなかにその位置を掴めない。
やや所在なく机に摘まれた真新しい教科書を眺める。
『今年1年、大丈夫だろうか。』
ぽつりと思いながら。


 時が流れ、
ようやく僕がそのクラスの中での
自分の位置を見つけた頃
咲き誇った菜の花はその旬を終える。
来年の再会を祈りつつ。


あの頃を思い出す。
良いも悪いもあったあの頃を。
その懐かしい気持ちを味わいたく
僕は僕の春である菜の花を探す。
僕の原点にあるとも言えるその花を。