引き出し

 何か過去のことを語るとき
あるときからそれが10年の単位を持つようになった。
自分が聞いていたあの曲が
見ていたあの作品
つい先日のことのように話してみれば
「あー、昔流行りましたよね。」と返される。


 昔という言葉がつくと
その対象は一つ違うところ、
棚の奥、押し入れの中の様な
普段手が届かないところに置かれたかのように
聞こえてくる。


消えるわけではなく、
あまり目の届かないところにある。
普段気にすることもなく
時折訪れる登場の機会に
ふと顔を出す。


しかし、それもある程度まで。
過去という押し入れには次々に客が訪れ
先客はどんどん奥へと押し込まれていく。
光差すこともなく、じっと待つ場所へ。


 ある意味で喜ばしいことなのかもしれない。
自分という中にある押し入れに
多くのモノがたまっているということに。
引き出すモノがたくさんあるということが。
自分は昔しか知らないのではなく
それだけ語るべきモノがあるということなのだから。


しかし、それも使えなければ
その対象にスポットを与えられなければ無駄となる。
たまには奥を整理してみる。
古くさいことを言ってと返されることがあったとしても
その中に何か大切なモノがあるかもしれないから。